ある夜のリビング、子ども達が寝静まった後、論子さんがため息をつきながら何かを見ています。そこへ夫の貢さんが帰って来ました。

貢 『ただいま。』

論子『あぁ、お帰りなさい。気が付かなかったわ。ごめんなさいね。』

貢 『浮かない顔だね。何かあったのかい?』

論子『ねぇ。この写真を見て。』

貢 『路夫の写真だね。この間の記録会の時のかい?いい写真じゃないか。』

論子『顔じゃないの。もっと下。運動靴をみてよ。』

貢 『うん?運動靴?それがどうかしたのかい?』

論子『そう。気が付かない?周りに写っている子のスニーカー。どれも今はやりの型のやつでしょう。』

貢 『それで?』

論子『路夫のは学のお下がりだから・・どう見ても古臭いというか、ずいぶん見劣りするような感じがしてね。考えてみたら路夫は何でもお兄ちゃんのお下がりでしょう?靴だけじゃなくて服や鞄や・・。仁実は女の子だからまた新しいのを買うけど。路夫の物はお兄ちゃんのがあると思うから、あんまり買わないかも知れないわ。』

貢 『路夫がはずかしがって、新しいのが欲しいって言ってるのかい?』

論子『路夫は・・何も言わないけど。』

貢 『じゃあ何が問題なんだい?その運動靴で記録が悪かったのかい?』

論子『そんなわけじゃないけど。』

貢 『この写真の路夫の顔を見てごらんよ。すごくいい顔をしてるじゃないか。もちろん家は路夫の靴が買えないわけじゃないけど、学のやつがあって、それもあの子は物を大切にするからほとんど傷んでなかったんだろう?子どもの時はその家の事情でいろんな事がある。むしろそんな見た目や環境に振り回されないように育てたほうがいいんじゃないかい?』

論子『そうね。でも、この靴の傷み方、学の時と同じ物とは思えないわ。違う意味で買い換えないとね。』

さてこんな時、論語では何というでしょうか。

 

 

そこなわず、求めず、何を用てか臧からざらん。

 

《解説》

 お友だちが新しい文房具やスニーカーを買ってもらって学校に持ってきた時、うらやましくて『みんなもってるんだよ。買ってよ。』っておねだりした事ありませんか?

 確かに『うらやましい。』そうだよね。でもちょっと考えて見て。『それは今、本当に必要な物なのか。』『ただ、うらやましいだけなのか。』って。

 どんなに着飾っても、いい物をもっていても、たくさんの習い事をしていても、中身がしっかりしていないと結局何にもなりません。それどころか逆にうすっぺらく、かわいそうにさえ見えます。ピカピカのスニーカーで一番ビリなんて悲しい結果になったら・・・。それ、ちょっとイヤだよね。

 自分に自信がある人は決して持ち物を見せびらかしたりして自分を大きく見せることはしません。

 うらやましがったり、持っていないことを恥ずかしがるのはむしろ自分が弱い事を宣伝しているようなもの。カッコ悪いと思いませんか?